ベントナイトは、止水材料として掘削泥水・廃棄物処分場のクレーライナー等土木分野で広く用いられており、放射性廃棄物地層処分システムのバッファ材料としての使用が検討されている。本研究開発は、ベントナイトの自己修復性と水に分散するにはベントナイトの10倍量の水が必要になってくる。エタノールに溶解したエタノール/ベントナイトは、ベントナイトと当量のエタノールで高密度でのスラリー化可能であること、エタノールの誘電率の小さいことによるベントナイトの物性の変化により構築後エタノールは水と置換されるが、その際膨潤圧が発生し強く地盤と密着してベントナイト固形止水壁ができることが明らかにされている。
そのため、エタノールの土壌中での挙動、環境影響や回収・処理技術等メタノールやイソプロパノールに比べ安全性の高いエタノールを利用した止水壁の構築技術の開発によりエタノールの新規需要を開拓する実用化研究である。
・エタノール/ベントナイトスラリーの材料としての物性を明らかにすること。
・エタノール/ベントナイトスラリーを利用する際の、地盤環境、あるいは周辺構造物に与える影響を明らかにすること。
・エタノール/ベントナイトスラリーを用いた止水壁の構築方法および性能を明らかにすること。
・エタノール/ベントナイトスラリーを止水充填材として用いた際の施工方法および性能を明らかにすること。
・ 現場におけるエタノール含有水の処理方法を明らかにすること。
重金属/エタノールの吸着に関するバッチ試験、エタノールの土中微生物による分解試験、界面の電気現象の解析、エタノールによるコンクリートへの影響に関する検討、ポンプ圧送試験、止水壁の地震安定性試験、を通じて、エタノール/ベントナイトスラリーを使用する際の地盤環境に及ぼす影響と、エタノール/ベントナイトスラリーの適用性について室内試験によって基本的な検討を進めた。その結果、土中微生物によってエタノールは容易に分解してしまうこと、コンクリートへの影響は小さいこと、エタノールの使用によってベントナイトの特性が向上すること、スラリーは数百メートルまで容易にポンプ圧送できることなどを確認した。
などを行った。
その結果、スラリー濃度は、100~110gエタノール/100gベントナイトという高濃度化が可能であることが分かった。また、エタノール濃度は、60%未満にすることが可能であり、消防法上の危険物には該当しない様に出来ることが分かった。模擬止水壁のセン断強度は、地盤が不飽和であれば、目安とした2.5kPaを確保出来ることが分かった。透水試験では、ベントナイト注入量5g/100g砂という少ない注入量で、1×10-8cm/sという低い透水係数が得られた。自己修復性確認試験では、亀裂を設けた水試験供試体を作成して透水試験を行ったところ、ベントナイトの膨潤により15~30時間後には亀裂が修復され、1×10-8cm/sオーダーの透水係数を回復することを確認できた。新材料の開発・性能向上では、ベントナイト原鉱を乾燥してから篩い分けにより粒度調整した粒状ベントナイトは、粉末ベントナイトを用いた場合よりもさらに高濃度・高密度とすることが可能で、80~90gエタノール/100gベントナイトにできることがわかった。また、粒状ベントナイトを用いた透水試験では、粉末ベントナイトを用いた場合に劣らない、1×10-7~10-8cm/sの透水係数を得られることを確認できた。
地下に構築された止水壁は、付近に存在するコンクリート構築物から溶出するCa2+イオンの影響を受け、止水壁中のNa+ベントナイトがCa2+ベントナイト化して、止水性能が劣化する怖れがあり、確認試験を行った。エタノール/ベントナイト・スラリーを注入した模擬止水壁に純水を8カ月透水してエタノールを水でほぼ完全に置換した後、Ca2+イオンを含む水に切り替えて透水した。その結果、動水勾配が20であれば、透水係数はほとんど変化しないことを確認できた。動水勾配が大きくしかもCa2+イオン濃度の高い条件では、透水係数の増大が起こる。透水係数増大の原因は、Na+ベントナイトのCa2+ベントナイト化により止水壁が収縮して亀裂が発生するためであることが確認できた。従って、実際の止水壁の様に、拘束圧が作用している場合には、亀裂の発生が抑制され、透水係数の増大も抑制されるものと考えられる。この点については、3軸透水試験による確認が必要である。
地中でのエタノール等の挙動解析を3DFEMFATによって行った。その結果、実測値が50cmの精度で表現できることがわかった。解析によって揚水中のエタノールの移動を予測したところ、エタノール濃度は浅部ほど高くなる傾向となったが、これはモデル実験での状況と同一であり、解析法の有効性が確認された。実施工を想定した解析ではエタノールの外部への拡散はほとんど生じないことが判明した。
20m3土槽試験によって、エタノール/ベントナイトスラリーで構築した止水壁の透水係数は4×10-8cm/sと、十分な止水性を持っていることを明らかにした。地盤中のエタノール拡散について、解析結果の妥当性を確認できた。さらにこの拡散領域と濃度は好気性分解により2ケ月以降には減少することが判明した。また、地盤中の水を排水することによって止水壁中のエタノール濃度が低下する傾向が確認できた。重金属の遮蔽性能に関しては、鉛がほぼ完全に遮蔽できることが判明した。また、施工機械に関しては、スラリーと土との混合性能には不明の点が残っているが、スラリー調製装置以外は現状での地盤改良機が概ねそのまま利用できることが確認できた。
エタノール/ベントナイトスラリーは厚さ10cmの水中の空間に均質に水中充填できること、そして透水係数としては10-8~10-10cm/sを維持していることを確認した。 また、打設後の止水充填材は水とエタノールとの置換によって10~20kN/m2の膨潤圧を発生するため、地盤との密着性が十分に期待できることを確認した。施工機械に関しては、通常の注入工法に利用されている機械がそのまま利用できることが確認できた。
地下水中に含まれるエタノールの回収方法及び処理方法について検討した結果、排水中のエタノール濃度が低いために回収は不可能であること、また、排水中のエタノール分解処理には活性汚泥法が適していることを明らかとした。また、下水道の受入基準を考慮したにもとづく最適な揚水計画により、排水処理装置を大幅に縮小・削減でき、多くの場合には廃水処理装置そのものが不要になる。
エタノール/ベントナイトスラリーのもつ低透水性、膨潤性、良好な注入性、などの特長を確認できたほか、適用する施工機械にもある程度の目処がついた。また、外部へのエタノールの拡散がほとんどないことも確認できた。
止水壁の構築に関する残された課題は、土とエタノール/ベントナイトスラリーとを原位置で撹拌する際の均質性である。この課題解決には現場確認試験が必須であり、幾つかの現場試験での確認を経て、実用化のレベルに至らしめる予定である。
止水充填に関する残された課題は、技術レベルの高い岩盤亀裂などの狭い箇所への止水充填の適用性である。他の組織からの検討依頼をはじめとして、ひきつづき今後も検討することになっており、数年以内に現場実験ができるものと考えている。なお、注入に関しては、まず高い止水性が必要となる場所から適用され、材料のコストダウンとともに、ダムやトンネルと言った一般土木分野での活用も十分に可能であると考える。
本プロゼクトは、専門的知識を要する分野について、清水建設(株)及びクニミネ工業(株)に再委託したものである。2年間の短期間のうちに地中でのエタノールの挙動の解明とエタノール/ベントナイトスラリーの長期安定性を確認した。地磐中にエタノールのベントナイトに及ぼす特性変化などの多くの未解明な課題に取り組み、特に、室内モデル実験に基づく、エタノールを用いてベントナイトを地中へ高密度条件下で導入できることを証明すると共に、エタノールの地中での挙動解析や回収技術・処理方策の解明がなされた。さらに、エタノール/ベントナイトスラリーの長期安定性についても透水性の確保という観点から証明し、実用化へむけての基礎的技術を確認したものである。今後は、止水壁のモデル実験を拡大した実証プラントを建設し、実用化を図ることとしている。