研究開発調査の成果と概要
新規需要拡大に関するテーマ
アルコールを原料としたバイオケミカルズに関する研究開発(H7H12

1研究開発の概要

1-1目的・意義

微生物代謝生産物であるバイオケミカルズを得るための培養基質には、元来、ブドウ糖を始めとする糖質原料が主として用いられている。エタノールは、安全・清浄なイメージに加え、物理・化学的にも優れた多くの特性をもつ再生可能な炭素源であるが、これを培養炭素源として積極的に利用されている例は、食酢等の一部を除いてほとんどない。これには、エタノール(アルコール)が高価であることの他、静菌・殺菌効果に見られるように、一般の微生物にはアルコールストレスが害作用として働き、生育を抑制することから好適な資化原料とはいえないことにある。また、アルコールは無酸素下、細胞が行う糖代謝において、エネルギーを確保する過程で生じた電子処理の場での廃棄産物であり、嫌気的条件下ではさらに酸化しての利用は難しいことが上げられる。更なる資化利用は、前記の酢酸製造等にみられるように好気性の強い微生物群に代表・限定されることとなり、産生バイオケミカルズの興味対象としては薄い等の要因が考えられる。
しかし、一方では、アルコールストレスのもとでそれを資化・生育する微生物には、通常の糖質利用と異なった(TCA回路側から糖代謝経路側への何らかの迂回経路を介した糖新生回路の作動が必要となる)生理状態にあると考えられる。そこには、特異な細胞構造の関与や代謝物の生産等が想定され、新規・有用なバイオケミカルズ確保の期待も大きいといわれる。
この手法を積極的に活用することで、新たなバイオケミカルズを確保し、その特性を利用した用途開発、実用化を図ることで、専売アルコール(現、事業法アルコール)の新規分野開拓・コスト削減への寄与を狙うものである。

2研究開発成果の概要

2-1研究成果の概要

本研究プロジェクトでは、アルコール専売事業の中長期的安定基盤確立に係る課題であるコスト削減、新規需要・用途開発のための実用化が目的であり、本研究開発では、アルコールを基質として資化性微生物を培養することにより、有用なバイオケミカルズを生産させ、実用化・新規需要へとつなぐ高効率なトータルシステム構築を図ることにある。
ここでは、実用的研究が殆どないエタノール資化性微生物の探索から始め、スクリーニング・育種を経て、確保した生産菌による対象バイオケミカルズ(①糖脂質・有機酸、②機能性界面活性剤、③ポルフィリンケミカルズ、④生理活性物質・イソプレノイド系物質)の生産にかかる一連のプロセス要素(培養~回収・精製にいたるプロセス)のシステム化を確立したことで、トータルシステム構築を完成した。

  研究開発計画の内容と成果

ア.エタノール資化性微生物の探索

テーマ毎に、広く自然界・保存菌株等から目的菌株を探索するとともに、スクリーニングを重ね、アルコール資化性有用菌株多数を取得、更に、選択を進め、対象とするバイオケミカルズ生産の適正菌として利用した。

    1)糖脂質・有機酸生産菌

        総エタノール資化性菌株         1,000

         うち、糖脂質生産菌株            80

               凝集剤生産菌株             5

               抗生物質生産菌株           5

               アミノレブリン酸生産菌株    1

    2)機能性界面活性剤生産菌

        総エタノール資化性菌株           8,472

         うち、界面活性剤生産菌株        79

       (2次スクリーニング基準:表面張力(45mN/m 以下)通過株)

              リパーゼ阻害物質生産菌株    16  

               抗生物質生産菌株           22  (うち、有望株 3)

        3)ポルフィリンケミカルズ生産菌

         ポルフィリンケミカルズ生産菌株    137

                 (対象菌:紅色非硫黄光合成細菌)

        4)生理活性物質・イソプレノイド系物質生産菌

           総エタノール資化性菌株         1,395   (alc. 3%耐性)

             ( alc. 5%耐性菌株 318  、エタノールのみの資化性菌 26)

            うち、新規ペプチド系物質生産菌株   3

                  抗生物質生産菌株             2

                  アルドン酸生産菌株            3

                  界面活性物質生産菌株          3

                  バイオポリマー生産菌株       61

                  オリゴ糖生産菌株             50

イ.バイオケミカルズ生産メカニズムの研究

探索し、確保したエタノール資化性微生物について、バイオケミカルズの生産メカニズムを検討するとともに、生産能を向上させるため、遺伝子組替え等により、優良菌株の育種を行った。

ウ.エタノール資化性微生物の培養条件の検討

エタノール資化性微生物の増殖及びバイオケミカルズ生産性向上のため、温度、培地、エタノール濃度等に係る最適培養条件を検討した。

エ.バイオケミカルズ回収・精製システムの検討

確保した優良菌株培養液からバイオケミカルズを効果的に回収・精製する方法を検討し、実用化に向けたシステムを開発した。

オ.トータルシステムの構築

エタノール資化性微生物の選別・育種、培養、及びバイオケミカルズの回収・精製にかかる検討をもとに、エタノールを原料とした高効率バイオケミカルズ生産のトータルシステムを構築すると共に、システムの経済性評価を行い、新たな工業的利用分野への開拓を図った。

以上、4項目(イ~オ)をまとめた対象バイオケミカルズごとの成果概要は次の通りである。

1)糖脂質・有機酸の生産等

対象の選定

医薬、農薬を含むファインケミカルズ分野では、多種多様な高機能性をもつ安全な新素材が切望されている。バイオケミカルズはまさにその要望に添うものとして期待は大きい。糖脂質・有機酸は生物体のいたるところに存在し、かつ、多面な生理活性・代謝に関与することで知られ、未知、また有用な生理活性物質探索の宝庫といえる。エタノール資化性微生物の産生するバイオケミカルズ中に、その新規・有用な可能性を求めた。確保したバイオケミカルズのうち、以下の2つを最終的な研究開発対象物とした。

1-1ラムノリピッド(生産菌:Pseudomonas aeruginosa IFO 3924

本品の生産誘導、生産性の向上にはオートインデューサーの関与が重要な意味を持ち、その発現にはエタノールストレスが有効なことを見出した。現在の生産性は78g/L。培養上清をpH 4 に調整、塩として沈澱・回収する簡単な精製方法を構築し、大量生産の道を開いた。収率は約55%、コストは@2,000/kgである。用途面は優秀な界面活性作用、乳化・生分解特性を利用した廃油・重金属・ダイオキシン等処理を含む環境浄化・修復方面への活用が期待される。

関連特許出願

a.エタノールを用いたラムノリピッドの製造方法 特願平 08-248485、特許 2923756

b.油中水滴型ミセルの乳化方法 特願平 10-110070、特許 2972871

c.含水油エマルジョンの油水分離方法 特願平 10-110073、特許 2979140

1)-2ピオルテオリン等抗生物質(生産菌:Pseudomonas fluorescenns S272)、多糖類系凝集剤(生産菌:Klebsiella pneumoniae H-12

生産誘導、生産性向上には、前項同様のエタノールストレスが有効である。
現生産性は、抗生物質 2g/L、凝集剤 4g/Lであるが、それらは植物への弊害を考慮すれば、ほぼ、限界濃度と考えられる。用途面は多糖類と抗生物質生産菌を併せ用いる新型微生物抗菌剤の製造、及び農地への適用(農薬、肥料)として、菌体での利用が考慮される。コストは、共に、菌体として @ 500/kgである。

関連特許出願

a. 細菌培養による化合物の製造方法及び植物成長促進剤 特願平 10-261026、特許2000-69985

b.植物成長促進剤 特願平 11-320043

c.有用微生物の定着促進剤及び方法 特許2000-178850

2)機能性界面活性剤の生産等

対象の選定

界面活性剤の用途は,広範囲に及ぶなか、付加価値の高い医薬品、化粧料及び食品産業への利用は一定の伸びを示している。ここでも安全性が高く、環境に優しい天然由来の素材への要望は高い。アルコールを原料とすることで、好イメージな高機能性、生理活性のある界面活性素材を探求した。特性面では、安全性と生分解性が高く、皮膚刺激性のないことが最低限の必要項目である。
微生物が生産する機能性界面活性物質(バイオサーファクタント)には、糖脂質系、アシルペプチド系、脂肪酸系等の各種が知られている。これらのうちで、エタノールを基質に、人に対する安全性、優れた生分解性を持つ等、環境適合素材の可能性を探索し、次の3つのバイオケミカルズを選定した。更に新規性よりスクレロチオリンに集約し、開発・研究を推進した。

2-1アルドン酸 変換能(生産菌:Acinetobacter属、EB-47

生産菌はエタノールのみで生育、エタノール優位性を示す菌株である。グルコースのグルコン酸への変換能力は 100g/L2day。本品は他と内容重複のため、研究を中止した。

2-2サーファクチン類縁体(生産菌: Bacillus subtilis EB-162

グルコースを含む培地にエタノールを添加することで、生産性が急向上(約10倍)する。生産物は、サーファクチン類縁体群であり、成分中に新規誘導体を発見した。類縁体群の生産性は 0.2g/L。目下、機能を調査・開発中である。
培養液をセライト濾過後、酸性沈澱、再セライト濾過・回収、UF濾過し濾液を濃縮、スプレードライして製品を得る。

関連特許出願

a.EB-162 物質及びその製造法 特願平 11-115313、特許 3103883

2-3スクレロチオリン(生産菌: Penicillium sclerotiorum EF-1646

本物質は、既知抗生物質ではあるが、リパーゼ阻害活性に関する報告はなく、この阻害作用に新規性を見出し、興味深い方面の用途が期待されることから、開発・研究を本テーマに集約、推進した。菌株はエタノール優位性を示し、現生産性は2.22.6g/L(高生産変異株使用のフラスコレベル。大量培養ケースでは 1.5g/L)である。
リパーゼ阻害活性では、豚膵臓リパーゼに対しIC50=6.25μg/ml を示し、また、ニキビ菌 Propionibacterium acnes 由来のリパーゼにも阻害活性を示す。用途方面は、膵臓のリパーゼ阻害から抗肥満薬、ニキビ菌のリパーゼ阻害から新タイプのニキビ治療薬・予防薬の期待もある。
製品化はセライト濾過後、ジクロロメタン抽出、シリカ添加後、酢酸エチル抽出から濾過・濃縮・乾固し、メタノールで粗結晶化する。このものを出発物質とした誘導体合成を進めることで、比活性の向上が期待される。コストは @ 428,000/kg60kLタンク、30ton仕込み)と試算する。

関連特許出願

a.リパーゼ阻害剤 特願平 10-376263、 特許 3010215

3)ポルフィリンケミカルズの生産等

対象の選定

ポルフィリンは骨格中に金属を配位したものにクロロフィル、ヘム等があり、自然界において生体維持に重要な働きをするものが多い。用途方面が期待されるエレクトロニクス及び光学分野、化学工業分野、医薬分野等では、高機能性化、新機能開発競争が激しく新規な物理化学的特性を有する素材研究が活発な中、多様な機能性をもつポルフィリンケミカルズは期待の大きな素材である。特に、エレクトロニクス及び光学分野におけるデバイス開発、化学反応用光増感剤・高分子合成触媒、癌の光化学診断・光線力学的治療、血液代替物質等、応用への期待は大きい。しかし、構造が複雑なため、安価、簡単に化学合成することは難しく、研究・利用には効率的な製造システムが切望されているものである。これを微生物学的、かつ効率的な調製法を志向し、研究を推進した。

3-1ポルフィリン(「コプロポルフィリン」として)

新しいポルフィリンケミカルズの供給源として、アルコール資化性で且つ生産能の高い紅色非硫黄性光合成細菌に注目、優良菌株であるRhodopsuedomonas palustris #7を宿主に、遺伝子組み替え技術システムを開発し、生産性の向上を図った。効率的遺伝子の組み替えに必要なベクター開発では、自然界から新たな潜在プラスミドを探索・単離し、光合成細菌-大腸菌シャトルベクター (pMG102, pMG122)を構築した。また、ポルフィリンケミカルズ生合成酵素に関し、生合成系遺伝子であるhem A,hem B R.palustris #7より、更に、大腸菌からhem C, hem Dを単離した。光合成細菌R.palustris #7 hem A 遺伝子組み替え体において生産性向上が認められたが、hem B では導入効果はなく、hem C,hem D の導入は不調に終わり、以降の生産性の向上は認められなかった。
生産条件の検討において、エタノール、有機酸に加えグルタミン酸の添加及び40℃における光嫌気培養は有効であり、生合成の初期化合物であるアミノレブリン酸を添加することで顕著な生産性向上( 115mg/L: 試験管レベル)を確認した。しかし、前記の光合成細菌によるポルフィリンケミカルズ生産は光嫌気培養なため、特殊培養設備による高コストの懸念が大きい。このことより、遺伝子工学的手法を用い光合成細菌利用に代わる新たなポルフィリンケミカルズ生産プロセスを志向し、工業用有用菌株であるエタノール資化性コリネ型細菌(Corynebacterium glutamicum R)にポルフィリンケミカルズ生合成遺伝子 (hemA,B,C&D)を導入、組み替え株を作成するとともに、金属イオンの影響、栄養成分、空気供給条件等の検討から、培養最適条件を確定することで、経済的培養法を開発した。
目下の生産性は 3.2/L、これまで報告された世界最高レベルを上回る世界最高値である。ポルフィリン(コプロポルフィリン)の精製は菌体を遠心分離後、上清を酢酸エチル/酢酸で抽出・濃縮し、塩酸によりpH調整して得た沈澱物をODSレジン吸着、後メタノールで抽出して製品を得る。

コスト(生産目標値:1kg/kL・weekを想定)は以下のように試算する。

 ・ 組み替え光合成細菌使用の場合 @ 392,000/kg

 ・ 組み替えコリネ細菌使用の場合 @ 153,000/kg

この成果で、工業的に有用且つ培養の容易なコリネ型細菌(ポルフィリンケミカルズ非生産菌)を、生産菌に転換出来ることを証明した。ポルフィリンケミカルズ原料(基材)生産への波及効果に関し、目下の生産物(コプロポルフィリン)では、ポルフィリン症用分析試薬としての評価に留まるが、有用な生理活性を示す誘導体を作製するとで,市場規模は、一気に拡大するものと思われる。

4)生理活性物質・イソプレノイド系物質の生産等

広く、自然界等から探索、スクリーニングしたエタノール資化性微生物から生産、或いは、微生物がもつ総合機能を利用することによる健康・香粧・医療・生活改善等にかかわる有用生理活性物質の確保と実用化研究を進めるとともに、また、化粧料等に広く用いられ、今後、原料の限定・枯渇化が懸念されるスクアランの前駆物質であるスクアレンの新しい資源として、微生物を用いた持続性ある生産法の開発を推進した。集約したバイオケミカルズは以下の通り。

4)-1 Ba-8株(Acinetobacter baumannii Ba-8)と生産物

菌株は、グルコース等糖質では増殖せずエタノールにおいて特異的に増殖する微生物として探索・確保された。 尿素を窒素源に酸素通気、エタノール流加培養により高密度培養が可能となる(A660=108 , 乾燥菌体 40 g/L)。本菌が菌体外に生産する新規なアシルペプチドは、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、L- セリン、L-オルニチンを構成成分とするもので、金属との錯体形成等の特性を有し、医薬中間体としての開発が期待される。培養液を遠心処理、上澄液を活性炭吸着しメタノールで溶出させて製品を得る。(現生産性:0.1g/L 、コストは @10,000/kg と試算。)なお、菌株には必須アミノ酸、活性酸素消去物質等、食品栄養学上の有用成分に富むことから魚餌・飼料用に有効である(実証試験済)。更に、優秀な糖質酸化能を利用し、各種アルドン酸(グルコン、ガラクトン、マンノン酸等)の効果的生産が可能である。菌体毒性試験(DNA損傷作用性、遺伝子突然変異誘発性、細胞毒性、染色体異常誘発性等)はない。

・菌体(現生産性:40g/L、 コストは @500/kgと試算する。) 

・グルコン酸(現生産性:259g/L、 コストは@200/kgと試算。)

・ガラクトン酸(現生産性:200g/L、コストは@ 200,000/kgと試算。)

・マンノン酸(現生産性:252g/L、 コストは@ 300,000/kgと試算。)

関連特許出願

a.高機能性エタノール利用微生物 特願平 10-066082、特許 2961250

4)-2  BL58(Pseudomonas stutzeri BL58)と生産物

菌株は、エタノールを資化し、アルカリ性条件下でユニークな粘弾性をもつ多糖体を特異的に生産する。多糖体は窒素源にペプトンを用い、エタノールの逐次添加、初発pH10前後とし、通気培養下、生産される。(タンク培養最高生産量:15g/L)培養液を希釈・加熱後、遠心分離し、活性炭・セライト濾過処理後、UF膜処理、濃縮・スプレードライして製品を得る。多糖体はグルコース、マンノース、ラムノースを構成糖とし、分子量は約160万。2%以上でゲル化し、pH(210)、温度(~100℃)に安定な特徴ある生分解性ポリマーである。(マウス投与急性毒性認めずの他、変異源、皮膚・眼刺激性等の安全性試験で異常なし)(現生産性:15g/L、コストは @ 1,700/kgと試算する。)

関連特許出願

a.特異な粘性特性を有する新規多糖体の製造法 特願平 09-025713、特許 3057221

4)-3 ユーグレナ(Euglena gracilis)と生産物

葉緑体を持たないユ-グレナ細胞体を作製し、これにエタノールを添加、光照射なしで通気撹拌培養すること、更に、スクアレン生合成経路上の酵素阻害を組み合わせることで、細胞内にスクアレンの蓄積を効果的にし、生産性向上を図った。(現生産性: 5mg/L、最終目標コストは @2,500/kg を目途としている)生産性において、当初の60倍以上の向上を達成したが、実用レベルとはいえない。なお、ここで、エタノール添加の増殖細胞体にはビタミン、DHA、活性酸素消去物質に富むことが見出され、動物飼料、魚餌への応用では好結果を得、化粧料原料としても有望、開発が期待されている。(現生産性:10g/L、コストは@1,300/kgと試算する。)

関連特許出願

a.エタノールを用いた高機能性ユーグレナの製造法 特願平 10-069275、特許 2997767

3 今後の展開

エタノール資化性菌株の持つ特異性を活かしたバイオケミカルズの生産に係る研究開発は、エタノールの新規需要を開拓するという特別の目的において展開され、テーマに見合う有用、かつ特徴あるバイオケミカルズを確保し、これらのトータルシステムを構築することで、明確な用途方面を用意するに至った。特性の活用、かつ、更なる経済的プロセスを確立することにより、実用化の可能性は十分と考えられる。ただ、今後、更なる効率的生産システムの構築とともに、機能活性の一段の向上を図り、安全性の裏づけを明確にすることがポイントとなる。戦略を踏まえた専門家・企業との提携、共同開発が要望される。
エタノールの効用に関し、エタノールストレスが微生物の生育・代謝に大きな影響を与えることを見出したのは大きな技術的知見である。資化性菌株において、エタノールストレスは抗生物質・糖脂質等を含むバイオケミカルズの生産性に誘導因子発現として働くこと、また、溶存酸素の増加が及ぼす生理・代謝への影響から細胞内構造における活性酸素消去物質(ビタミン類、必須アミノ酸及び蛋白質、高級不飽和脂肪酸等)の造成・促進効果に著効があるという知見と活用がある。微生物による有用成分の調製、細胞改質への応用が期待される。更に、エタノール資化性の工業的適性菌(非生産性)をホストに高生産能を有するバクテリアの生合成酵素遺伝子を導入し、改質した菌株を用いたポルフィリン多量生産の可能性を確実にしたことも評価されてよい。市場への普及は、今後、有望機能性誘導体の作製にかかるものの、これまた、遺伝子工学を応用したユニークな成果である。
これらの知見・新技術は、関係学会・雑誌等で発表(添付:成果発表一覧)すると共に、約10件の特許取得となった。
良品質・安全性という最大の利点を有し、前記の新規効用が見出された再生可能な炭素源・エタノールの微生物学的活用の意味合いは、アルコール需要の新規開拓に留まるものでなく、現今、社会が要請する省資源・省エネルギー志向、環境への優しさと調和に関わる優良素材の提供として意味をもつ。派生した関連産業創出への波及効果を期待したい。

成果発表一覧

3-1平成8年度

① エタノールを用いたラムノリピッドの生産
(メルシャン() 仲田他)
 平成8年10月 日本生物工学会

② エタノール資化性細菌が分泌生産する新規なゲル形成バイオポリマー

③ Pseudomonas stutzeri BL 58株によるエタノールからのゲル形成ポリマーの生産(()バイオインダストリー協会 岡村他)平成9年4月日本農芸化学会 1997年大会

④ 紅色非硫黄光合成細菌のポルフィリン細胞外分泌
()地球環境産業技術研究機構 山縣他) 平成9年4月 日本農芸化学会 1997年大会

3-2平成9年度

① Application of  Photosynthetic Bacteria for Porphyrin Production 
()地球環境産業技術研究機構 山縣他)
平成9年9月 第4回 二酸化炭素利用国際会議

② Application of  Photosynthetic Bacteria for Porphyrin Production 
()地球環境産業技術研究機構 山縣他)
平成10年2月 「第4回 二酸化炭素利用国際会議プロシーディング」会議要旨集

③ High production of rhamnolipids by Psuedomonas aeruginosa growing on ethanol 
メルシャン() 仲田他)
平成10年2月 Biotechnology Letters (Chapman & Hall)

④ Pseudomonas fluorescens における抗生物質生産のストレス誘導メカニズム 
(メルシャン() 仲田他)平成10年4月 日本農芸化学会 1998年大会

3-3平成10年度

① エタノールを炭素源として生産されるリパーゼ阻害物質   
(合同酒精()根岸他)
 平成10年9月 日本生物工学会 平成10年度大会

② Klebsiella pneumoniae H 12株の生産する多糖類系凝集剤

③ 微生物産生多糖類系凝集剤の構成成分     
(メルシャン() 仲田他)
 平成10年9月 日本生物工学会 平成10年度大会

④ エタノール資化性細菌Ba-8の分離と生産されるアシルペプチド類 

⑤ エタノール資化性細菌Ba-8株によるアルドン酸の生産  
()バイオインダストリー協会 岡村他) 
平成11年4月 日本農芸化学会 1999年大会

⑥ Promotion of Antibiotic Production by High Ethanol, High NaCl Con centration, or Heat Shock  in Psuedomonas fluorescens  S272

⑦ 生物系界面活性剤ラムノリピッドを用いた環境浄化システム   
(メルシャン() 仲田他)平成11年4月 日本農芸化学会 1999年大会

⑧ Correlation between Autoinducers and Rhamnolipids Production by Psuedomonas aeruginosa IFO 3924

⑨ High production of pyoluteorin and 2,4-acetylphloroglucinol by Pseudomonas fluorescens S272 grown  on ethanol as a sole carbon source.  
(メルシャン() 仲田他)
  平成11年2月 日本生物工学会(J. Ferment. Bioeng. vol.86, 6(1998)

⑩ A facile procedure of remediation for oily waste with rhamnolipid biosurfactant   
(メルシャン() 仲田他)
平成11年2月 J. Environmental science & health part  A34,21999)

⑪ EB-162株が生産するSurfactin類のFAB/MSによる構造解析     
(合同酒精()根岸他)平成11年5月 日本質量分析学会

3-4平成11年度

① 抗生物質生産菌Pseudomonas fluorescens とカイワレ大根の生物系凝集剤による共生システム
(メルシャン() 仲田他)平成11年9月 日本生物工学会平成11年度大会

② 提供(合同酒精())化合物のスクリーニング結果 
(文部省がん特定・総合がん・制がん剤スクリーニング委員会)
 平成12年3月  「癌と化学療法」別冊(癌と化学療法社)

③ ユーグレナにおける効率的スクアレン生産に関する研究   
()バイオインダストリー協会 岡村他)平成1111月 第15回ユーグレナ研究会

④ 遺伝子組み替えコリネ型細菌によるポルフィリンの分泌生産   
()地球環境産業技術研究機構 岡崎他)
 平成12年4月 日本農芸化学会 2000年大会