研究開発調査の成果と概要
アルコールのコスト低減に関するテーマ
アルコールの品質変化に対応した品質管理手法に関する調査研究(H9H12

1調査研究の概要

1-1調査研究の目的

昨今、製造物責任法(PL法)の施行、ISO9000 並びにISO14000 シリーズ等の普及に伴い、専売アルコール(現、事業法アルコール)製品についても、需要者(ユーザー)から、品質の維持・保証等品質管理への要望が高まってきている。これに応えるため、特に、品質の劣化が懸念される製品の輸送・包装・製品保管等の流通段階において、アルコールの品質に影響を与える各種要因を調査・解析し、対応を検討することで、需要者に対する品質保証に資する品質管理手法の開発を行う。

1-2調査研究の内容・課題

① アルコールの品質変化についての分析化学的検討

アルコール中の不純物の分析及び分析化学的検討を通して、アルコールの品質変化の検討を行う。

② 製品保管によるアルコールの品質変化についての検討

製品アルコール保管中に生ずる品質変化について、調査・検討するものである。小型の試験研究用製品タンクを用いた保管試験、並びに実用タンク保管におけるアルコールの品質変化の状況を検討・評価することで、製品タンク等での製品保管時に関するアルコール品質管理手法の開発を行う。

③ 包装材によるアルコールの品質変化についての検討

ドラム缶、18L缶等の包装材中におけるアルコールの品質変化状況を評価・検討することで、アルコールの品質管理手法の開発を行う。

④ 輸送におけるアルコールの品質変化についての検討

タンクローリー、タンカー等による輸送時におけるアルコールの品質変化状況を評価・検討することで、アルコールの品質管理手法の開発を行う。

⑤ 総合研究

ア. 品質管理等の調査

品質管理に関する特許・文献情報を収集、分析すると共に、国内外産業における品質管理の現状及び品質管理システムの動向等を調査する。

イ.研究管理

委託研究の効率的な推進を図ると共に、研究結果の総合的な分析及び品質管理手法の開発を行うため、学識経験者等により構成される委員会を設置し、研究内容・研究結果等の検討を行う。

2調査研究の成果の概要

2-1アルコールの品質変化についての分析化学的検討

専売アルコール試験法等により検出される不純物の内容を把握すると共に、種々のラボ試験等を通じ、アルコールの品質劣化要因探索並びに、そのメカニズムの追求を行った。また、接液材の成分溶出によって生ずるアルコール製品の汚染、品質変化について検討した。

・成果要点

① 製品中の不純物の定性・定量分析の成果

製品規格値に抵触することはないが、以下の有機不純物等の含有が確認されている。

  (有機不純物 (/L)

    発酵品  MeOH(~30)IPA(~5)

    合成品  IPA(~30)NBA(~25)

    その他  2-Me--PrOH、SBA等 数種類

  (金属不純物 (/L)

    発酵品  Cu(~50)Na(~310)、K(~3)Ca(~7)

    合成品  Na(~180)K(~4)Ca(~8)Mg(~1)

  (無機イオン類)

    両製品ともに検出せず

  (過マンガン酸還元性物質試験[PMT試験:以降、PMTと略称する])

    発酵95度特級製品(専売規格値 8分以上)  8分台

    その他の製品(規格値なし)          7分台

② (ラボ試験による品質変化要因探索の成果

ア.(擬似)太陽光照射劣化試験(10日間)

アルコールは、(擬似)太陽光の照射により、強制的に劣化され品質変化を起こす。組成的には、アセトアルデヒドの生成・増加がみられる他、蒸留釜残中には多成分の高分子化合物が確認されている。この中に、PMT値を悪化させる成分が集積しているとみられる。

イ.有機物添加試験(20日間)

製品中に極微量ながら存在し、品質を変化させる可能性のある代表的なカルボニル化合物4種類を選び、添加(約10ppm)によるアルコールの劣化に対する影響を調べた。クロトンアルデヒドのみがPMTを大幅に悪化させる以外、アセトアルデヒド、アセタール、酢酸については、この程度の添加では品質変化に影響は現れなかった。通常(の含有濃度)では問題はないといえる。

ウ.金属板との接触試験(20日間)

Cu板 : アセトアルデヒドの生成・微増があり要注意の素材である。

SUS板、Fe板 : 品質変化を示さなかった。

エ.金属溶出試験(6ヶ月間)

Cu板、真鍮板 : Cuの溶出あり。アセトアルデヒドの生成・増加が見られ、加温(40℃)試験では、増加が顕著となった。

Zn板、Al板 : 加温(40℃)試験では、金属の溶出が見られた。しかし、品質への影響はみられなかった。

Sn板 : 溶出・品質変化共になかった。

オ.劣化メカニズムに関する検討

製法の差異が光劣化には関係があり、発酵品に比べ合成品の方に劣化しやすい傾向が見られた。この結果をベースに、アルコールの劣化メカニズムとPMT影響物質の関連性を検討した。その結果、劣化を促進する物質(酸及び酸化・ラジカル促進剤)及び抑制する物質(アルカリ及び抗酸化・抗ラジカル剤)が明らかとなった他、関連する種々の要因も明らかになった。

カ.PMT値の経時変化に関する検討

PMTへの影響について、代表物質であるクロトンアルデヒド及び3-ブテン-2オンを添加し、PMT値の経時変化を調査した結果、添加後一旦悪化したPMT値が、ある条件下では時間が経つと反転・復活することが観察された。これは、添加した物質がPMTに対して不活性なものに変化したことによるものと考えられる。この結果はPMTの値が、測定のタイミング、放置期間、測定の温度等の条件により変化することを示すものとして念頭におく必要がある。

キ.複合要因による品質変化

実際のアルコールの品質劣化は、色々な要因の複合作用によっておこると考えられる。例えば、アルコールにアセトアルデヒドを添加しただけでは品質は変わらないが、これに光照射が加わると大きな劣化を示すようになる。即ち、PMT値が低下し、アセトアルデヒドの酸化・重合生成物が多数検出される。これに、金属の鉄及び銅、あるいは、ドラム缶コーティング材等を加えると、更に、触媒作用が加味され、劣化は加速度的に進行することが判明した。また、鉄錆及び塩酸の存在は、光劣化を加速し、一方、水分の存在は抑制する。いずれも、擬似太陽光照射下での強制劣化の試験結果であるが、光がアルコールの品質劣化に大きな影響を及ぼすこと、及び品質劣化メカニズム・要因についての知見といえる。

③ アルコールの品質変化調査の成果

ア.酸素通気後3ヶ月保管試験(溶存酸素による品質変化への影響調査)

褐色ビンに入れたアルコールに15分間酸素通氣を行い、密栓・放置し、品質変化を調べた結果、通気直後に見られたPMT値大幅向上は、3ヶ月後には、通気なしのものと変わらない結果となった。PMT 以外の品質には変化がなかったことから、酸素通気のみでは、品質劣化への影響は殆ど無いものと考えられる。

イ.長期保管品の品質確認

実タンク、極低レベル液量の状態において約3年間保管された製品アルコールには、PMT値の低下、水分の増加、アセトアルデヒドの増加等品質変化が見られた。しかし、品質変化の速度は、模擬小型タンクでの低容量レベル保管試験の半分程度と想定され、タンクの形状を含む保管状態が、品質変化にかなりの差を及ぼすことが想定された。

ウ.接液部材による品質変化

塩ビ製ホース一夜の浸漬で多数の有機物が溶出し、PMTを大幅に低下させた。新品の方が使用品に比べて、品質低下が大きい。浸漬を繰り返すことで、溶出量は減少する。ドラムコーティング材 一週間浸漬した結果、PMTの変化は小さかったが、UV吸収帯の検出、更に増加が見られた。FT-IRスペクトル解析結果からコーティング材からの溶出物(エポキシ系化合物)と推察された。

エ.ガスケット部材の溶出による品質変化

常用のガスケットについて、溶出による品質変化を調べたところ、テフロン系以外の、クロロプレン系、黒鉛フィラー系、アスベスト系のガスケットから溶出物が確認され、PMT値を急激に低下させた。製品アルコール品質低下を防ぐ厳密な管理を行うには、溶出のないテフロン系ガスケットが推奨される。

④ 品質の安定化、並びに規格汎用化等にかかる調査

ア.品質安定化に係る試験

製品流通工程の3箇所(収納槽、無償保管庫、有償保管庫)から試料を採取し、流通過程にある製品品質の水準と変化を調査した。その結果、専売規格上の品質変化・劣化は認められず、良好に保たれていることが判明した。その他の項目では、含有微粒子、亜硫酸、溶出物について調査を行い、含有微粒子の粒子径と個数の凡そのレベルが判明したことで、今後の用途目的に応じた品質管理の基礎データとして役に立つと思われる。また、抗酸化の主役と目される亜硫酸は発酵品及び合成品共に検出限界以下であった。

イ.規格の汎用化に係る試験

現在の専売規格がアルコールの専売制度廃止に伴い、規格の基準・内容も変化していくことが考えられる。当面の汎用試験法である国際規格のISO1388(工業アルコール試験法)と日本薬局方試験法を選んで試験し、現行専売試験法と比較した。試験法の違いから得られた測定値の直接比較は出来ない。現行専売規格試験法に較べると、ISO試験法は比色分析法が主体であり、感度・精度共低いと考えられる。また、試薬の調製数が多い等の理由で一つの測定に要する工数も多く、今後、実用試験法として、存続・採用の意義が問われることも想定される。同様のことが、日本薬局方試験法についてもいえる。

ウ.アルコールの劣化機構の解析

アルコールの劣化要因及び機構の研究を行い、解析に必要なアルコール中の総アルデヒド定量分析法及び微量亜硫酸定量分析法を確立した。これらは今後の品質劣化の定量的把握に役立つものと考えられる。また、劣化のメカニズムについて、これまで得られた諸成果から(目黒仮説)「アセタールサイクル」を提案した。

エ.規格試験における分析値(流通各所)の偏差と要因

品質評価の根幹である品質規格項目の中から、有機不純物定量値(GCによる)とPMTの重要項目2つを選んでその信頼性について調査した。有機不純物定量値については、十分に信頼性があるという結論を得たが、PMTの測定値に関しては、振れ巾が大きく、比較に対する信頼性には問題ありの結果となった。振れの原因(標準液、希釈水、試薬調製法等)検討を行ったが、主因の特定には至っていない。比色試験であるため、いくつもの要因の重なりが、終点の判定の差につながり、中でも判定者の主観による部分が大きいと思われる。専売アルコール製品におけるPMTに関しては、現行手法では60秒程度の偏差(許容誤差)を前提に取り扱うのが妥当である。

オ.PMTに及ぼす有機不純物の種類、濃度及び測定温度の影響に関する試験

アルコール品質劣化の定性的指標として使用されているPMTについて、関係のある有機不純物の種類、濃度及び測定温度の影響について試験を行い、定量的データとして図表化した。トピックスは、クロトンアルデヒドの影響が非常に大きいこと及び、従来の成果では、濃度が低く、影響度合いがよくわからなかったアセトアルデヒドも今回の結果(濃度100ppm以上)では、かなりの影響があることも判明した。測定温度の影響も極めて大きく、低温になると急激にPMT値が伸びる。その度合いはアルコールの種類(含水、無水)により異なり、通常温度範囲における、液温(x)(℃)とPMT(=y)sec.)の関係近似式は次のとおりである。

          y=2.9091222-178.21+3030.8(無水)

        y=2.88962-166.84+2841.6(含水)

PMT規格測定温度(25℃)付近±1℃の温度差では、PMTは約30程度の差として測定される。

カ.(光照射によらない)加速試験による品質変化の試験

非現実的ではあるが、加速手段の常法とした光照射に代え、酸素、温度、金属を加速因子とした品質劣化試験を行った。その結果、光照射劣化の大きな特徴であった合成製品の感受性は現れず、発酵製品、合成製品とも同様な劣化傾向を示した。これは光照射劣化のもつ特異性を明らかにしたものと考えられる。金属及び金属イオンの品質変化に及ぼす影響は、金属銅の影響が大きい等、以前、得られていた結果と同様の傾向を再現した。また、特にFe()Fe()イオンの品質劣化に及ぼす影響の大きいことが確認された。鉄錆の混入は、品質管理上好ましくないものといえる。

2-2製品保管によるアルコールの品質変化についての検討

製品アルコールのタンク保管時の品質変化を調査するため、実際のタンクを模した小型模擬タンクを設置し、発酵並びに合成アルコールの各種類を長期保管することで、アルコール中に含まれる不純物の経時変化を調査、分析を行った。

・成果要点

①通常保管試験成果

6ヶ月及び1年保管試験を実施した結果、僅かではあるがPMTの低下とアセトアルデヒドの増加が見られた。加えて外部ガスの混入に起因する塩素イオンや水分の緩やかな増加も見られた。実タンクでは、保管製品の出入りが通例であり、本試験結果に比し、品質の低下は小さいと考えられる。ただ、長期(入れ替えのない)保管後の現用タンクサンプルの分析データが示すように、本質的な経時の品質劣化に加え、外部からの異物混入により、品質は変化すると考えたほうがよい。

②窒素シール効果確認試験成果

窒素シールにより外気の流入が遮断されることで水分の増加、及び外気中の不純物の混入はなく、製品の酸化が抑えられることが実証された。この結果から、品質保全を厳密に行うためには窒素シールは望ましく、また、錆発生防止・引火爆発防止・炭化水素放散防止等の面からも好ましいといえる。

③低容量レベル保管試験成果

低容量レベルで製品を保管すると劣化が加速、品質低下が大きくなることが判明した。これはタンクの空間が大きいため(タンクの呼吸による)外気の出入り量が大きく、在庫製品との(単位液量当たりの)接触が増加したためと考えられる。低容量レベルでの保管は出来る限り避けることが望ましい。

2-3包装材によるアルコールの品質変化についての検討

製品アルコールのドラム缶、18L缶による保管等において、包装材による品質変化を調査するもので、実際に使用している各種ドラム缶、18L缶に製品アルコールを充填・保管しアルコール中に含まれる不純物の経時変化、保管品の性状変化を調査、分析した。

・成果要点

ドラム缶保管試験成果

内面塗装缶、スチール缶、SUS缶を使用して種々の保管試験を行った。約1年の保管においては、若干のPMT低下の他、品質劣化は認められなかった。しかし、内面塗装缶の1部から、塗装材からの溶出と見られるエポキシ樹脂由来の有機物の吸収帯の検出と経時増加が確認された。ドラム缶保管には、アルコールの用途により、保管期限、ドラム缶材質についての配慮が必要である。また、保管場所(屋内及び屋外)による品質変化に関する試験を実施した結果、専売規格上の品質の差は見られなかったが、内面塗装材からの溶出物は屋外保管の方に多い傾向が見られた。保管場所は屋内が望ましい。

②18L缶保管試験成果

溶接缶及び接着缶を使用して種々の保管試験を行った。約6ヶ月の保管試験を行ったが、非常に緩慢なPMT低下以外の品質変化は認められなかった。しかし、吸収スペクトル分析では、内面処理剤由来の溶出物質と見られる有機物が極微量検出された。この結果から、18L缶保管についても、ドラム缶保管と同様な配慮が要望される。

2-4輸送におけるアルコールの品質変化についての検討

タンクローリー、タンカーによる製品輸送時におけるアルコールの品質変化に関するデータを収集、分析、検討を行う事で、製品輸送時における品質管理手法構築の資料とした。

・成果要点

①タンクローリー(SUS製)による陸上輸送試験

塩釜→小樽、塩釜→札幌、石岡→名古屋の3ルートを使ってタンクローリーによる輸送試験(4品種、各3回づつ)を行った。その結果、いずれも専売規格上の抵触事項はなく、品質変化は認められなかった。また、上記サンプルを用い、対照として実施した振とう処理による擬似輸送品も、実輸送テスト結果と同様、品質変化は見られなかった。従って、現条件におけるタンクローリーによる輸送は適切であり、本質的な品質変化は起こらないと見られる。

②タンカーによる海上輸送試験

米ノ津→塩釜、四日市→門司の2ルートを使ってタンカーによる輸送試験(2品種、各3回づつ)を行った。その結果、輸送前後における専売規格上の抵触事項はなく、品質変化は認められなかった。現輸送条件は適正なものと考えられる。ただ、一部において、水分の微増及び内面塗装材由来と見られる極微量の溶出物が検出された。タンカーによる製品輸送では、海水等の水分混入及び内面塗装船における塗装材からの有機物溶出による汚染、品質変化に細心の注意が必要である。

2-5総合研究

① 品質管理等の調査

ア.研究動向調査

東京都立大学大学院工学研究科保母研究室、東京大学大学院農学生命科学研究科山崎研究室、東北福祉大学目黒研究室等を訪問、アルコールの品質劣化メカニズムとその要因、また、関係する分析方法等についての調査。

. 国内類似化学品品質管理状況調査

類似化学品であるイソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、高純度アルコール等について流通段階における品質管理状況の調査。

ウ.専売アルコール保管庫、ユーザー及び関連製品メーカーの品質管理状況調査

約20ヶ所を訪問した。品質管理の実態調査を行うとともに品質管理の体制、製品受入・保管の管理、製品払出の管理等についての情報収集。

エ.海外アルコールメーカーの品質管理状況調査

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツのアルコールメーカーの品質管理状況調査(調査会社起用)。トピックスは以下の通り。

      ・テフロンの推奨

          ・窒素シールの推奨

          ・品質保証期間設定についてユーザーからの要求は少ない

       (非公式見解として6ヶ月は品質が維持されるとしている)

          ・変性アルコールの規格を決めている国もある

オ.専売アルコール受入・使用に関するアンケート調査

調査項目は、ユーザーでのアルコールの保管日数、ユーザーでの受入検査の実施状況、ユーザーとサプライヤーのISO9000s認証取得状況及びユーザーの意見の4項目。品質管理の在り方についての情報収集のため。

② 研究管理

調査研究の効率的な推進を図るため、調査研究推進委員会及び調査研究WG会議を毎年3回開催し、調査内容等の分析、検討を行った。調査研究の成果の普及に関しては、劣化メカニズム、取り扱い材料、分析手法などの成果を関係者に迅速、積極的に連絡することで、流通製品の品質保全に反映させている。

3 流通段階におけるアルコールの品質管理手法

3-1製品受入・保管・払出作業の品質管理手法

検査

受入検査
供給者は当然品質を保証するが、受入側は自衛上、品物が所定のアルコールで、かつ、合格品であることを必ず何等かの方法で確認すること。場合によってはサンプル保管も考慮すること。

在庫検査
保管中は定期的に品質をチェックすること。月一回実施しているところが多い。その際、代表値を示す正しいサンプリングを行うこと。

払出検査
供給者は払出品が規格に合格していることを受入側に証明しなければならない。その方法は、受入側との合意によるが、保証書、分析表等の提出がある。トラブルに備えサンプル保管も考慮すること。

保管

在庫期間
緩やかながらアルコールの品質は、経時変化する。従って、品種別に在庫品の最大在庫期間を設定し管理すること。品種によるがPMT及び水分に要注意。最大長在庫期間は、保管条件の影響を受けるので一律には決められない。各保管庫で実績を見て決めること。

タンク液位
タンクの液位が低いほど空間容量が大きく、気・液の接触比率が増加する。不活性ガスシールをしていない場合は、大気の出入り量が多く品質低下速度が大きい。 低液位での長期間在庫は、出来る限り避けること。避けられない場合は、検査を強化し品質変化を監視すること。

タンクシール
品質上のシール効果はあまり大きくないが、保安上及び設備保全上の効果もあるので出来れば実施した方が良い。実施しない場合は、特に保安事故防止に充分配慮すること。

設備

設備材料
現在使用されている材料で品質問題は起こっていないが、アルコールの品質を劣化させるもの及び成分の溶出により品質を変化させるものは出来る限り避けるべきである。金属では銅や真鍮、ガスケット素材ではアスベストやゴム類がある。また、アルミニウム、亜鉛は溶出し、鉄錆は品質変化を加速するので要注意。材料には、金属ではステンレススチール、樹脂ではテフロンが推奨される。

設備保全
設備を適正に維持するために、日常点検及び定期自主点検を行うこと。主な点検項目は、製品漏洩、内外部腐食、安全弁・アース・計測器などの性能。

作業

作業基準
受入・日常点検・払出作業の作業基準を作り、それを遵守すること。作業基準は、常に最新版であること。

内部監査
安定した品質の製品を供給するための品質管理システムが有効に機能しているかチェックするため内部監査を定期的に行うこと。

3-2包装材充填・保管・出荷作業の品質管理手法

包装材

ドラム缶
現在ドラム缶には、主にスチール缶、内面塗装缶、ステンレス缶の3種類が使用されている。いずれも現規格のもとでは品質上の問題は無い。だだし、スチール缶については、鉄錆による品質劣化の進行、及び内面塗装缶では、一部において塗装樹脂に由来する成分の溶出が見られるので、出来るだけ溶出の少ないものの採用が望ましい。また、保管期間に対する配慮も必要である。新しいドラムを採用するときは、事前に溶出テストを実施すること。

18L缶
現在18L缶としては、主に溶接缶及び接着缶が使用されている。これも現規格のもとでは品質上の問題は無いが、非常に緩慢ながらPMTの経時低下があるので注意が必要である。また、18L缶にも若干の溶出現象があることに留意して使用のこと。

検査

包装材検査
ドラム缶の内部検査は、非常に重要な作業の一つである。検査システムを確立し、それを遵守し、内部汚れと内面塗装剥離による異物混入クレームの防止に努めること。

出荷検査
ユーザーと協議の上、ロットサイズを明確にし、ロット毎の品質を保証するのが大原則である。保証は、保証書又は分析表による。品質保証期間は、未開封品で6ヶ月ならば問題無いと考えられる。

保管
品質の低下を出来る限り少なくするため、出荷までの在庫期間を短くすること及び保管場所の温度が高くならないよう管理をすること。汚れによる異物混入及び温度上昇を防ぐ面から屋内保管が好ましい。

設備

設備材料
充填設備及び付属機器類の金属材料はステンレス又パッキン類はテフロン系が好ましい。

設備保全
設備を適正に維持する為に、日常点検及び自主点検を実施すること。主な点検項目は、異物混入防止のため塗装、腐食、フイルターの目詰まりなど。

作業

作業基準
充填作業の基準を作り、それを遵守すること。作業基準は、常に最新版であること。

内部監査

設備を含め、決められたことが本当に守られているかを主眼に内部監査を定期的に行うこと。

3-3バルク充填・輸送・荷揚作業の品質管理手法

輸送容器

ローリー
ローリーは全てステンレス製なので、現状程度の輸送距離であれば品質上全く問題は無い。

タンカー
タンカーには油槽がステンレス製のものと内面塗装のものがある。ステンレス製は品質上全く問題は無いが、内面塗装が施されたものではドラム缶の場合と同様、塗装樹脂由来の溶出に注意すること。

検査

容器検査
ローリー及びタンカーの内部を決められた方法で点検し、異常の無いことを確認すること。

出荷検査
ローリーの場合は、ロットサイズを決めてロット毎の品質を保証するのが大原則である。保証は、保証書又は分析表による。タンカーの場合は、一回の輸送量が1ロットであり、積んだ製品を分析し合格を確認する。保証は分析表による。

輸送

ローリー
衝撃、転倒に注意して輸送すること。

タンカー
雨水、海水などの侵入に注意して輸送すること。

設備

設備材料
充填、荷揚げ及び付属機器類の金属材料はステンレスが好ましいが、スチールを使う場合は、要所に異物除去のためのフイルターを設置すること。パッキン類は、テフロン系が好ましい。

設備保全
設備を適正に維持する為に、日常点検及び定期自主点検を実施すること。主な点検項目は、異物混入防止の為、保温、腐食、塗装、フイルターの目詰まりなど。

作業

作業基準
充填作業、荷揚げ作業の作業基準を作り、それを遵守すること。作業基準は、常に最新版であること。大気中での危険物取り扱い作業故、異物混入防止だけでなく、火災爆発防止に充分配慮すること。

内部監査

決められたことが守られているかを主眼に内部監査を定期的に行うこと。 品質、保安、環境のトラブル発生防止が大切。

4 流通段階におけるアルコールの品質管理システム

4-1品質管理システム構築の必要性

品質管理の手法があっても、それを文書化し、実行し、維持して行く仕組みがないと常に安定した品質の製品を継続して供給することは出来ない。この仕組みが品質管理システムである。品質管理システムが構築され、効果的な運用がなされれば、品質トラブルの早期発見・早期処置が可能になり、生産性が上がりコストダウンに繋がる。それとともに品質が安定するので、ユーザーの信用が得られるという効果も大きい。よって、各組織に合った品質管理システムの構築が是非必要である所以である。この際、自社独自の方法で構築する場合と、対外的に広く認められた規格を使って構築する場合がある。従来は、前者のケースが多かったが最近は圧倒的に後者のケースが多い。
現在、広く認められた規格として採用されているのが、日本のJISにもなっているISO9000sの規格である。この規格により、平成12年3月現在、15,000件以上の品質管理システム構築の認証取得があり、その後も件数は増加傾向にある。

4-2品質管理システムの実態調査

アルコール業界のISO9000sによる品質管理システム構築に関する実態調査(平成11年度)の実施結果を要約すると次の通りである。

① サプライヤー(製造 9工場、物流 4社)

ア.ISO9000s認証取得(済、中、予定)  70%

イ.その他(取得しない)            30%

②ユーザー(47社)

ア.ISO9000s認証取得(済、中、予定)  70%

イ.その他(迷っている、取得しない)      30%

用途分野別では、化学工業分野のユーザーの認証取得が、飲食料品分野より積極的であった。
この結果から、アルコール業界も品質管理システム構築に、前向きに取り組んでいることがうかがえる。また、ユーザーは、サプライヤーの積極的なISO9000s認証取得を強く望んでいることも明らかとなった。

4-3品質管理システムの内容

ISO9000s(1994年版)の要求事項によって構築される品質管理システムの内容のアウトラインは、次の通り。

  トップが責任を持ち、先頭に立って品質管理の推進を行うこと
  契約は重要なので事前にその内容を十分確認すること
  品質保全のため、適切な購買(購入・請負)を行うこと
  顧客要求を満足させる製品を作るため、ステップを踏んで設計を行うこと
  プロセスは、常に管理された状態で作業を行うこと
  受入れ、工程内、最終の各検査を確実に行うこと
  再発防止及び潜在要因摘出を確実に行うこと
  システムが効果的に機能しているかチェックするため定期的に内部監査を行うこと
  その他

平成12年12月に、ISO9000sの改定が行われたが、基本的には上記の内容と変わらない。改訂版のISO9000s(2000年版)に新たに追加された主な要求事項は、次の通りである。

  プロセスアプローチの導入
  顧客満足の重視
  継続的改善の実施
  その他

1994年版に比べて、TQC・TQM色が強くなったのが特徴。一層、組織の体質強化に繋がるものと考えられる。