研究開発調査の成果と概要
アルコールのコスト低減に関するテーマ
高効率アルコール合成技術に関する研究開発(H6~H11

1研究開発の概要

工業用の合成アルコールの需要は堅調に推移しているため、アルコール業界としては、需要に見合った量を安定供給するとともに、低廉な価格とするため製造コスト低減が重要な課題となっている。また、環境汚染防止、設備保全の観点から、現行の合成アルコール製造工程におけるリン酸流出を防止することが望まれる。

このため、合成アルコール生産工程の効率化及び環境汚染防止に貢献するため、既存合成アルコール反応プロセスの効率性の向上とリン酸流出防止のための高性能エチレン水和触媒を開発するとともに、この触媒を用いた高効率アルコール合成プロセスを開発することを目的とした。

現行リン酸触媒の高選択率を維持して、プロセスの生産性を高めるためには、高性能触媒による転化率向上等によるSTY(空時収量)の増大を実現し、また、環境汚染防止、設備保全等の観点からのリン酸流出抑制には固体酸又は改良担体とすることとした。

2研究開発の課題

2-1   高性能触媒の開発Ⅰ

2-2   高性能触媒の開発Ⅱ

2-3   ベンチプラント運転研究

 

3研究開発成果の要約

3-1    高性能触媒の開発Ⅰ

強酸の性質を有するニオブ系酸化物を対象とし、有効酸量の増大化等によるエチレン水和活性の高い固体強酸触媒の開発を行い、ニオブ-タングステン触媒を見い出した。活性は高く安定性に優れているが選択性は低いため、Li等を添加して副反応抑制により改良した。

ニオブ系以外の各種金属酸化物を組み合わせて、酸量、酸強度の高い触媒として探索したタングステン-リン触媒は、高活性、高選択性等の優れた性能を示し、第3成分Siを添加したタングステン-リン-ケイ素触媒として、さらに転化活性を高めることができた。

3-2    高性能触媒の開発Ⅱ

一方、ニオブ系以外の金属酸化物による結晶性固体酸を探索し、タングステン-チタン触媒を見いだした。高活性で安定性に優れているが選択性は低いため、第3成分添加による改良を検討した。

リン酸系触媒は、現行プロセスに用いられているシリカ担体にチタン化合物を担持したシリカ-チタニア改良担体を開発した。現行リン酸触媒よりも活性や選択性が高く、リン酸消費量が少なく出来た。リン酸保持能力に優れ経時変化の少ない安定な構造を有する改良担体とするため、ジルコニアを組み合わせて複合化したシリカ-チタニア-ジルコニア担体を検討した。

 

3-3    ベンチプラント運転研究

ベンチプラントの詳細設計、装置の製作を行い、設備完成後に試運転を実施した。

    触媒性能評価試験

装置の安定運転性確認、装置特性の評価試験、運転手法のノウハウ取得の後、選定された候補触媒の性能評価試験に入った。

反応特性把握運転(RUN1,RUN2)及び安定条件確認運転(RUN3,RUN4)では、実用反応条件下(7Mpa)での条件を適切に設定すれば、標準条件において700時間の長期運転が可能となった。

実用反応条件下では細孔に水が凝縮し易くなるため、特にタングステン-リン-ケイ素触媒の活性発現条件は狭い適正範囲に限定されることが明らかになった。

タングステン-チタン触媒は、高圧条件では低温高活性で選択性も向上し、経時変化少ない安定性の優れたポテンシャルを有することが確認された。

リン酸/シリカ-チタニア改良担体触媒は、現在使用されているリン酸/シリカ担体触媒に比しリン酸流出が大幅に抑制され、リン酸保持力に優れていることが実証された。                                        以上のとおり実用反応条件でのベンチ運転評価の結果、開発された高活性のタングステン-チタン触媒、高選択性のタングステン-リン-ケイ素触媒は高性能触媒として実用性能が確認され、リン酸/シリカ-チタニア触媒はリン酸保持力に優れ安定性の高い実用性能が認識された。

    既存プロセスとの比較

既存プロセス反応系をベースにしたシミュレーションモデルを用いて、高性能触媒を使用した高効率プロセスと現行リン酸/シリカ触媒プロセスを比較して、経済性に関する検討を行った。

タングステン-リン-ケイ素、タングステン-チタン高性能触媒は、基本的にリン酸流出はなく、高SV運転での目標STY値の達成による生産効率向上と触媒寿命の延長による合理化が可能となり、現行プラントに導入すれば年間3~4億円程度のメリットが見込まれる。 新プラント設置の場合は、タングステン-チタン触媒を使用すれば、設備のリン酸腐食対策は全く不要となり、建設費を大幅に削減できる。

リン酸/シリカ-チタニア改良担体触媒は、リン酸流出が少なく触媒寿命も改善する合理化が可能となり、現行シリカ担体に代替すれば年間70百万円程度のメリットが期待できる。